「林ハイツ」には猫が暮らしている。その理由とは。

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 野里住吉神社の鳥居を前にして、路地を左に入った住宅街の一軒が「林ハイツ」。以前はその名の通り賃貸のハイツだったが、2年ほど前に改装され、現在は猫が暮らしている。なおかつ太極拳教室でもあり、12月12日からはアートの展示会場にもなる。

 このよく分からない空間について、家主である立川由美子さんに解説してもらった。

 「もともとここは父が所有していた物件でした。私は長く商社に勤めていたんですが、2年前に晴れて定年退職しまして、ここを管理することになりました」

 野里住吉神社の界隈には野良猫が多い。子供の頃から大の猫好き、愛玩動物飼養管理士2級の資格を持つ立川さんは、「TNR」活動をしていた。TNRとはTRAP(つかまえる)・NEUTER(不妊手術をする)・RETURN(元の場所に戻す)の略。野良猫を餌付けし、時間をかけて捕まえ、不妊手術をしてまた元の場所に帰すという活動である。

 猫は繁殖力が高いので、野良猫を放っておくとどんどん増える。事故にあったり、エサがなかったりで亡くなってまう猫だって増えるし、地域住民とのトラブルも増える。そうした不幸を少しでも減らそうというものだ

 「こうした活動は、団体によって人によって、いろんな考え方があります。正解はないと思うので、個人的な活動として行っています。ただただ、自分の地域で不幸な猫を生みたくないという気持ちだけなんです」。

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TNR活動も行っている立川さん。不妊手術を行った野良猫は、その証として耳をカットし、再び捕まえてしまうことを防ぐ。

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 そんな猫への思いから、立川さんは保護猫を預かる活動もしようと考えた。これは多頭飼いによる飼育崩壊や虐待など、さまざまな事情で保護団体がレスキューした猫を一時的に預かるというもの。

 「保護猫は人間におびえてしまうケースが多く、人がいる環境に慣れてもらう期間が必要なんです」。そうして人と一緒に暮らせるようになり、里親が見つかると、新たな生活へと巣立っていく。

 というわけで、立川さんは「林ハイツ」を改装し、保護猫が暮らすための部屋をつくった。保護猫たちが、人間に慣れることが目的なので、人の出入りがあって、人の声がする環境が理想だ。立川さんファミリーの住まいは千舟にあって、ここに24時間いるわけにもいかない。そこで太極拳なのである。

 「会社勤めをしていた頃から、乗馬が趣味でした。馬に乗るためにモンゴルに行ったり、マダガスカルに行ったりもしたんです。乗馬って体幹が大事なんですね。それで、体幹にいいと聞いて始めたのが太極拳なんです」  やがて太極拳の指導員の免許を取るまでになった立川さん。保護猫部屋に人が訪れるようにするため、さらには保護猫の飼育代を稼ぐため、太極拳教室を始めたというわけ。

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太極拳教室が行われるスペースの奥に、猫の部屋がある。

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 そんなこんなで「林ハイツ」では現在、週に10時間、太極拳教室が開かれている。それ以外の時間にも、人が出入りするようなことができたらいいな、というところで企画されたのがアートの展示スペースとしての利用。立川さんの弟は、「みてアート」への出展でもおなじみ、現代美術作家のモリン児さんなのである。  つまりは、保護猫が暮らす場所であり、太極拳教室であり、アートの展示空間でもある。それが「林ハイツ」。モリン児さんの個展「番外モリン児展」は、12月12日から1月14日まで。モリン児さんのこれまでの作品のダイジェスト的展示になるそう。ぜひ、保護猫のためにもお越しあれ。

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展示前の状態。ここからモリン児ワールドが展開していくはず。レンタルスペースとして利用することも可能。

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番外モリン児展
期間    2022年12月12日(月)~2023年1月14日(土)
時間    平日16時~20時、土日13時~19時
休み    水曜
場所    林ハイツ(大阪市西淀川区野里2-7-23)
問い合わせ 090-7884-7206

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期間中、西淀川子どもセンターの15年の歩みをつづった書籍『地域の「よっしゃ」を子どもに』(著・西川日奈子/発行・藤工作所)の販売も行います!


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