福町会館で作品づくりに取り組む美術作家の村田のぞみさん。福を中心とした西淀川の人たちとの交流から言葉を紡ぎ、作品に昇華させていく。

美術作家 村田のぞみさん

福小学校の向かい、福町会館の駐車スペースで、ひとり女性が作業をしている。今月21日から姫里のゲストハウスに滞在して、ここで作業をしている。何をしているのかというと、針金をくねくねと曲げている。黙々と。かたわらには大きな木の枠があって、そこに曲げられた針金がぶら下がっている。この不思議な光景、11月3日まで続くらしい。何だかすごい。

というのも、11月4日(土)・5日(日)に開催される「みてアート」で発表する作品をつくっているのだ。「みてアート」は毎年、御幣島を中心としたさまざまな場所を会場に、展示やワークショップが行われるアートイベント。11回目となる今回、福町会館を会場に、初めて福エリアがみてアートのスポットになる。そのための作品づくりというわけ。

でもってその女性、村田のぞみさんは美術作家。細かく編み込んだステンレス線を空間に浮かび上がらせた作品で知られる。出身は奈良の大和西大寺。今も住んでいる。だったらなぜ西淀川にいるのかというと、今回の取り組みが、大阪公立大学「EJART」人材育成プログラムのアートプロジェクト「そこにある声を聞きなおす~公害から環境共生へ~」の一環で、「西淀川」「福」をテーマにした滞在制作(アーティスト・イン・レジデンス)の企画だからで、その制作者に村田さんが選ばれたから、なのだそう。というわけで大和西大寺から福だったら、なんば線で通えるけれど、西淀川に滞在して、西淀川の歴史、福の空気を体感して、作品に思いを込めている。どうやらすごい。

瀬戸内国際芸術祭2022での村田さんの作品。編み込んだステンレス線によって空間をつくることで、土地ならではの世界を表現している。[村田のぞみ「まなうらの景色/Remains in the Mind’s eye」撮影:木田光重]

今回みてアートで発表する作品は、ビニールで被膜されたカラフルな針金を使う。これ、何を表していると思います?

福町会館での制作風景。なかなか不思議な光景。西淀川に事務所を構えるアートコーディネーター・松岡咲子さんのプロデュースによって今回の企画が実現した。

「『アケルナルの光をみる』と題した今回の作品をつくるにあたってまず考えたのは、文字の力を借りようということなんです」と村田さん。せっせと曲げていた針金は、文字の形になっている。「これまでの私の作品はもう少し抽象的なんですが、この作品は具体的な言葉で表現しようと思っています」。

それは西淀川に滞在して、公害患者の人たちの話を聞いたり、福の人たちに町の印象を語ってもらったりした「言葉」が作品の核になっているから。滞在中にワークショップを開き、福の子どもたちも実際に針金を曲げて言葉をつくったりもする。そうして、針金でできた無数の言葉は一艘の舟の形となって、かつて漁村であった福の町を練り歩く、という計画らしい。

西淀川の、そして福の人々を媒介にして生まれた言葉で編まれた舟が、再開発が進む福のまちをたゆたう。そこからまた、あるべき豊かな福の姿が見えてくる。そ、そういうアートということであっているかしら……。11月4日・5日、作品を見てみて、感じてみよう。

一筆書きで言葉を書いて、針金で再現していく。

子どもたちや地域の人たちが考えた言葉を、村田さんが作る場合もあったり、自分たちで針金を曲げて作ったものもあったり。

会館の入口に置かれた、制作スケジュールと完成図。ぜひのぞいてみるべし。

今回の展示のフライヤーがこちら。アケルナルは一等星で「川の果て」の意味。[デザイン:廣畑潤也]

回遊型展覧会「アケルナルの光をみる」
2023年11月4日(土)・5日(日)11:00~16:00
会場 福町周辺/展示スタート地点 福町会館(西淀川区福町2-4)
Instagram:@ejart_nishiyodo
facebook:https://onl.sc/hFFG6u1
みてアート:http://miteart.blogspot.com
大阪公立大学EJART:https://eandjart.jp/program/85

村田のぞみ:美術作家。1994年奈良市生まれ。2022年京都精華大学芸術研究科博士後期課程芸術専攻を単位取得退学。2023年同大学にて博士(芸術)を取得。場所や個人が持っている記憶に関心を持ち、主に細いステンレス線やテグスを素材として扱い、場所の物語を紡ぐような作品を制作する。主な展覧会に瀬戸内国際芸術祭(2022,2019年/高見島)など。https://www.muratanozomi.com


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